本研究の目的の一つである「リンパ腫の分子病態に基づく微小残存病変(MRD)定量による治療効果判定・再発予測法の確立」に関する研究成果としては、犬のリンパ腫に対する多剤併用化学療法の客観的効果判定法としてMRD測定が有用であることを示し、さらにMRDの経時的変化が症例の予後と相関することを明らかにした。すなわち既定された25週間の多剤併用化学療法終了後のMRDレベルは、その後のリンパ腫の寛解期間と負の相関性が認められた。本研究は犬のリンパ腫における治療効果判定と予後評価を分子生物学的手法を用いて客観的に実施可能とするものであり、さらなるデータ蓄積が必要ではあるが、世界的にも類をみない先駆的な成果である。今後は多角的な視点においてMRD測定の有用性を検討していく。 また、本研究の目的の一つである「肥満細胞腫におけるTK遺伝子変異・リン酸化解析に基づく治療効果判定・予後予測法の確立」に関する研究成果としては、猫の肥満細胞腫におけるc-kit遺伝子を解析したところ、高頻度に認められる変異を特定することに成功し、その変異を有する腫瘍では分子標的薬であるイマチニブによる治療に効果を示す可能性が高いことが明らかとなった。また、犬の肥満細胞腫においては、様々なc-kit変異がKITの自己リン酸化に関与していることを細胞株を用いて明らかにし、分子標的薬によって感受性に差があることを示した。さらに、c-kitに変異が無い肥満細胞腫においては、KITのリガンドであるstem cell factorの自己分泌によって自己リン酸化が生じていることも明らかにした。本研究成果は犬・猫の肥満細胞腫に対する分子標的療法の有用性において強力なエビデンスとなると考えられる。今後はc-kitの変異、他のリン酸化関連遺伝子、腫瘍の病型などの多面的な因子が症例の予後に及ぼす影響についてもさらに検討していく。また、様々な分子標的薬の肥満細胞腫に対する薬理学的作用や薬剤耐性機構についても解析する予定である。
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