研究概要 |
昨年度(H22)までの研究において,自然発症性てんかん猫家系の一般的な臨床像の確認およびてんかん発症個体同士の交配によりF1仔猫を得ることに成功した. 本年度は自然発症性てんかん猫の成猫について従来の構造的MRI(T1強調画像,T2強調画像,FLAIR画像など)に加え,3次元撮像による海馬容積の解析および機能的MRI解析として拡散強調画像,脳潅流画像,拡散テンソル画像およびMRスペクトロスコピーの撮影および解析に入った.現在全例について完全な解析を終えたわけではないが,3次元海馬容積測定において,てんかん猫群は正常対称群と比較して明らかな海馬容積の減少および左右差が認められた.さらに拡散強調画像から得られる拡散係数も対照群に比べ片側海馬の有意な増加を示し,またMRスペクトロスコピーでは視床,海馬においてNAA/Cr,NAA/Choの低下が認められた.これらの結果と昨年度に確認した発作型の症候学的解析と鑑みることで,本てんかん猫における片側海馬の構造的および機能的変化が強く疑われた. 一方,昨年度に引き続き,頭皮上脳波の解析をより深め,本てんかん猫のてんかん素因を検討する目的でベメグリドを用いた脳波解析を行った.その結果,てんかん猫群は正常対称群に比べ有意に低用量で突発性異常波やスパスム,痙攣が誘発されたことよりてんかん素因が明らかに高い事が示唆された.また1頭のてんかん猫において深部脳波のビデオ脳波解析を行ったところ,発作が海馬-扁桃核で生じていることを確認した. 加えて,昨年度に作出したF1仔猫5頭のうち2頭(昨年までは全頭で脳波上の異常しか認められていなかった)で臨床的な発作発現を確認した.この事から,本自然発症性てんかん猫家系は明らかに遺伝性であり,かつ発症個体(劣性ホモ個体)のみでの系統維持が可能であることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き,実際に発作焦点が海馬に存在するかどうかを検証するため,少数例で慢性深部電極を用いた焦点の同定を行う.また脳波およびMRIで認められた異常を確認し,より詳細な病態解析を行うために,当初の計画通り病理組織学的評価および分子生物学的検討を始める.計画の変更は特にない.また来年度(H24)には本年度に行った脳波解析にH24年度の深部脳波での結果を含めた成果報告(論文投稿)およびMRI解析の報告(学会発表あるいは論文投稿)を計画している。
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