研究概要 |
細胞の膜電位に依存しない,神経液性因子によって制御される受容体作動性Ca^<2+>流入経路の増大が心血管病の発症・進展に関与することが個体レベルで明らかになってきている.本研究では,心血管リモデリング(筋肉細胞の肥大や線維化などの構造形態変化)におけるジアシルグリセロールなどの脂質によって活性化されるtransient receptor potential canonical (TRPC)チャネル(TRPC3/6)の細胞内シグナル伝達における役割を解析した.TRPCチャネル群は,カチオン透過性チャネルとしての機能だけでなく,様々なシグナル分子と機能的に結合するアンカー蛋白質としての機能も持つ.TRPC6チャネルにおいては,やホスホジエステラーゼと複合体を形成することによりcAMP-プロテインキナーゼA(PKA)やcGMP-PKG系の活性化に応じたTRPC6のリン酸化およびチャネル活性低下を効率よく行っていることを明らかにした(J.Biol.Chem., 2010).一方,TRPC3チャネルはPKCβと受容体刺激依存的に直接結合することで,TRPC3を介したCa2+流入依存的にPKCが活性化され,下流のMAPK経路を持続的に活性化させることも明らかにした(J.Cell Sci., 2010).さらに,拡張型心筋症モデルマウスの心臓では,TRPC3チャネルの発現量が顕著に増大しており,TRPC3チャネルの選択的阻害が心臓の酸化ストレスを抑制することで心不全を軽減させることを初めて明らかにした.以上の結果は,TRPC3チャネルが心不全治療薬の新しい標的分子となる可能性を強く示唆している.
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