研究概要 |
これまでの研究から,神経体液性因子により活性化される受容体作動性のCa^<2+>流入が心血管病関連遺伝子の発現誘導を制御することを個体レベルで明らかにしてきた.本研究では,心血管リモデリング(筋肉細胞の肥大や線維化などの構造形態変化)におけるジアシルグリセロールなどの脂質によって活性化されるtransient receptor potential canonical (TRPC)チャネル(TRPC3/6)の細胞内シグナル伝達における役割を解析した.TRPCチャネル群は,カチオン透過性チャネルとしての機能だけでなく,様々なシグナル分子と機能的に結合するアンカー蛋白質としての機能も持つ.TRPC6チャネルにおいては,やホスホジエステラーゼと複合体を形成することによりcAMP-プロテインキナーゼA(PKA)系の活性化に応じたTRPC6のリン酸化およびチャネル活性低下を効率よく行っていることを明らかにした(Afterioscler.Thromb.Vasc.Biol., 2011).一方,TRPC3チャネルはNADPHオキシダーゼと相互作用することで,受容体刺激による活性酸素生成に寄与することも明らかにした.さらに,拡張型心筋症モデルマウスの心臓では,TRPC3チャネルの発現量が顕著に増大しており,TRPC3チャネルの選択的阻害が心臓の酸化ストレスや線維化を抑制することで心不全を軽減させることを初めて明らかにした(Biochem.Biophys.Res.Commun., 2011),以上の結果は,TRPC3チャネルが心不全治療薬の新しい標的分子となることを強く示唆している.
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