本申請研究は、天然物を基盤として、新規抗薬剤耐性菌薬のリードを創出するものである。本年度は、強力なMraY阻害活性を有する抗菌活性天然物を包括的に合成することとした。ムレイドマイシン、ムライマイシンはウリジン部位が、3ないし4個のアミノ酸を含むペプチドと結合した天然物である。まずMraY阻害活性発現に必須な構造と、活性に必須ではないが、MraYとの結合能を高めたり、抗菌スペクトルに影響するアクセサリー部位とに分割し、合成終盤でのUgi4成分反応により、一挙に母骨格を合成することで、ムライマイシンD2、パシダマイシン、ジヒドロムレイドマイシンの全合成を達成した。本反応を用いることで合成工程数の大幅な削減ができ、効率的な化合物の供給が可能となった。そこで、各種ムライマイシン誘導体を合成し、その抗菌活性を評価した結果、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸中菌などの薬剤耐性菌にも広く有効な誘導体をみいだした。上記の天然物は、いずれも分子量が1000を越し、極性官能基を多数有する複雑な化合物である。分子量問題は、天然物をリードとした創薬研究を行う上での共通の問題であり、ドラッグデザインによる積極的な構造の単純化が必要である。そこで、カプラザマイシン、ムライマイシンのファーマコフォアの大幅な単純化を論理的に行った結果、分子量が約半分であるオキサゾリジン誘導体が、天然物とほぼ同等の抗菌活性を有することも見いだした。
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