研究課題/領域番号 |
22689004
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市川 聡 北海道大学, 大学院・薬学研究院, 准教授 (60333621)
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キーワード | 有機化学 / 感染症 / 天然物 / 薬剤耐性 |
研究概要 |
本申請研究は、天然物を基盤として、新規抗薬剤耐性菌薬のリードを創出するものである。本年度は、強力なMraY阻害活性を有する抗菌活性天然物とその誘導体の合成を行った。まずムレイドマイシンの類縁化合物であるパシダマイシンDの全合成を以下のとおり行った。非天然型アミノ酸であるジアミノブタン酸を調製し、アミノ酸3残基を順次縮合することで、テトラペプチドカルポキサミドを合成した。4',5'-不飽和ウリジンを、ヨウ素化試薬IDCTで処理する事で、Z-ビニルヨウ素体を高収率かつ高立体選択的に合成した。銅触媒を用いたクロスカップリングにより、Z-ビニルヨウ素体と先に合成したテトラペプチドカルボキサミドを連結した。最後に脱保護を行う事で、パシダマイシンDの初の全合成を達成した。同経路を用いて、3'-ヒドロキシ誘導体も合成した。3'-ヒドロキシ体は、天然物と同等の酵素阻害活性・抗菌活性を有する事がわかった。次に各種誘導体合成を指向して、本合成経路の改良を行い、Ugi4成分反応を基軸とした合成経路も確立した。本法を用いて、各種ハイブリッド化合物を合成した。一方、ムライマイシンについては、各種誘導体を合成し、その抗菌活性を評価した結果、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸中菌などの薬剤耐性菌にも広く有効な誘導体をみいだした。上記の天然物は、いずれも分子量が1000を越し、極性官能基を多数有する複雑な化合物である。分子量問題は、天然物をリードとした創薬研究を行う上での共通の問題であり、ドラッグデザインによる積極的な構造の単純化が必要である。分子量が約半分である単純化誘導体が、天然物とほぼ同等の抗菌活性を有することも見いだした。また、これらの構造・活性相関研究から、標的酵素MraYとの結合様式を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度・今年度で、目標としていたカプラザマイシン・ムライマイシン・パシダマイシン類の全合成経路を確立する事が出来たうえに、この合成を用いて合成した各種誘導体を用いた構造・活性相関研究から、ある程度の構造の単純化情報を得ることができたため。またこれらの誘導体は、薬剤耐性菌にも有効であることも担保された。これらの情報は、平成24年度に計画している分子シャッフリングと、大幅な構造単純化研究に極めて有用である。
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今後の研究の推進方策 |
ムライマイシン、カブラザマイシン、ムレイドマイシンの、3つの天然物の分子シャッフリングにより、ハイブリッド型天然物群を合成する。分子シャッフリング過程においては、考えうる単純なフラグメントを積極的に導入することで、アクセサリーフラグメントの単純化も図る。並行して、昨年に引き続き、カプラザマイシン、ムライマイシンのファーマコフォアである5'-0-bアミノリボシルグリシルウリジンの大幅な単純化を行う。カプラザマイシンは結核菌、ムレイドマイシンはグラム陰性菌である緑膿菌、ムライマイシンはグラム陽性菌に活性を示し、その抗菌スペクトルは幅広い。またムライマイシンはin vivoでも活性を有することが報告されており、標的酵素は同一であるものの、その生物活性は多彩である。そのため、本ライブラリーを用いて、様々な薬剤耐性菌に対するあらゆる可能性を期待して、創薬リードの獲得を行う。
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