研究概要 |
NLKは種を越えて保存された蛋白質リン酸化酵素である。私たちはこれまでに、「NLKが組織の形成と疾病の発症に関わる、WntシグナルやNotchシグナル等のシグナル伝達経路群の活性強度を調整する“レオスタット(加減抵抗器)分子”として機能すること」を明らかにしている。しかしながら、「①NLKによるシグナル活性制御の分子機構」、「②NLKによる活性制御の組織/個体における意義」、「③NLKの活性調節機構」、「④疾病発症とNLKの関係」については、十分には解析されていない。そこで、本研究ではこれらを詳細に解析し、NLKの機能と制御の分子/細胞/組織/個体レベルでの統合的理解を目指した。 本年度はまず、韓国ソウル大学との共同研究により、NLKの抑制因子としてDP1を発見し、さらに、脊椎動物の構築過程の神経組織においてDP1がNLKによるWntシグナル抑制を解除することによりWntシグナルを増強し、この増強が神経組織の前後軸パターン形成を促進することを見いだした(Kim et al., EMBO J 2012)。 また、NLKの臓器構築における機能解析も行った。シグナル活性を可視化したゼブラフィッシュを作成し(Shimizu et al., Dev Biol 2012)、これを用いた解析により、NLKがNotchシグナルとWntシグナルの双方の制御を介して腎臓の形成を制御することを見いだした(投稿準備中)。 NLKの制御下にあるWntシグナルは大腸がんの発症に深く関わるため、大腸がんとNLKの関係の解析も行った。その結果、多くのヒト大腸がんにおいてNLKの発現が亢進していることと、大腸がん細胞株においてNLKを過剰発現するとWntシグナルの活性化が起きることを発見した(投稿準備中)。これらの結果から、NLKの発現亢進が大腸がんの発生や進行に関与する可能性が期待できる。
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