研究課題
「目的」日本人の死因の第4位は肺炎である。肺炎球菌は、市中肺炎及びインフルエンザの二次性細菌性肺炎の起炎菌として最も頻度が高い細菌の一つであり、肺炎球菌に対する新しいワクチンや治療法の開発が求められている。本研究では、自然免疫に関与するNKT細胞が認識する肺炎球菌由来の抗原を同定し、NKT細胞による肺炎球菌認識機構を解明する。「研究成果」I.NKT細胞の認識抗原としての肺炎球菌糖脂質の同定マウスを用いた実験により、肺炎球菌糖脂質がNKT細胞のT細胞受容体を直接刺激することを証明した。また、ヒトの末梢血単核細胞より樹立したNKT細胞株を用いて、ヒトNKT細胞もマウスと同様に肺炎球菌糖脂質に反応することを示した。II.肺炎球菌糖脂質の構造の特徴と抗原性の関係の解明肺炎球菌糖脂質の構造解析の結果、主要な脂肪酸はパルミチン酸と、哺乳類では検出することが稀なバクセン酸であることが分かった。それらの脂肪酸の結合部位を明らかにするため、数種類の化合物を合成し、解析を行った。その結果、NKT細胞が認識する肺炎球菌糖脂質抗原は、R_1にパルミチン酸、R_2にバクセン酸が結合した構造であることを明らかにした。III.結晶構造解析によるNKT細胞の抗原受容体と糖脂質/CD1d複合体の結合様式の解析X線結晶構造解析を行い、肺炎球菌糖脂質がどのように抗原提示分子CD1dと結合しているか分子レベルで明らかにした。さらに、CD1d/肺炎球菌糖脂質/T細胞受容体の3量体のX線結晶構造解析結果を得ることに成功し、NKT細胞のT細胞受容体による肺炎球菌糖脂質抗原の認識機構を分子レベルで明らかにした。また、肺炎球菌感染早期においてNKT細胞による糖脂質抗原の認識を阻害すると、サイトカイン産生および菌の排除が阻害されることが分かった。その結果、NKT細胞は肺炎球菌感染早期に糖脂質抗原を認識し、感染防御に重要な役割を担うことが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
平成22年度と23年度の研究にて、当初の研究目的であった「NKT細胞が認識する肺炎球菌由来の糖脂質抗原の同定」に成功し、Nature Immunologyに研究成果を発表した。また、抗原提示分子CD1d/肺炎球菌糖脂質/T細胞受容体の3量体のX線結晶構造解析結果を得ることに成功し、PLoS Biologyに発表した。本研究により、マウスとヒトのNKT細胞が臨床上極めて重要な肺炎球菌などの特定の細菌の糖脂質を認識することを見出した。さらに、NKT細胞のT細胞受容体による肺炎球菌糖脂質抗原の認識機構を分子レベルで明らかにした。
本研究にて、肺炎球菌感染早期の免疫応答にNKT細胞が重要な役割を担うという有用な知見を得たので、さらに研究を発展させ、以下の解析を行う。I.NKT細胞による肺炎球菌認識及び菌体排除促進機序の解析肺炎球菌感染において、NKT細胞に糖脂質抗原を提示する抗原提示細胞を同定する。また、その抗原提示細胞によるNKT細胞の活性化機序の解析を行う。肺炎球菌感染直後から経過を追って詳細に解析することで、NKT細胞によって増強される肺炎球菌排除機構を明らかにする。II.肺炎球菌感染防御におけるIL-17産生NKT細胞の役割の解析肺炎球菌感染早期において、NKT細胞がIFNγ及びIL-I7というサイトカインを産生することを明らかにし、そのサイトカイン産生がNKT細胞による好中球の集積促進機能と関係することが示唆された。IL-17は真菌や結核菌に対する感染防御に重要な役割を担うことが知られているが、肺炎球菌感染防御に重要な役割を担うかどうか明らかになっていない。最近、NKT細胞には、IL-17を産生しIFNγを産生しない細胞群が存在することが明らかになったので、次年度は肺炎球菌感染防御におけるIL-17産生NKT細胞の役割を解析する。
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炎症と免疫
巻: 20 ページ: 3-9
Nature Immunology
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DOI:10.1038/ni.2096
PLoS Biology
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ライフサイエンス新着論文レビュー
http://first.lifesciencedb.jp/archives/3644#more-3644
Microbiology Immunology
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