研究概要 |
骨軟部腫瘍のうち、特に10歳代の若年者に好発する骨肉腫を対象として、テロメラーゼ特異的制限増殖型アデノウイルスによるウイルス療法の可能性について検討した。ヒト骨肉腫細胞株8株とヒト正常線維芽細胞株を用いて、アデノウイルスレセプターやテロメラーゼの発現を定量的RT-PCR法やウェスタンブロット法により解析した。さらに、各細胞株にアデノウイルスを感染させ、殺細胞効果を検討した。結果は、多くの骨肉腫細胞においてレセプターとテロメラーゼの発現が高く、アデノウイルスの感染により細胞内で増殖が起こり、殺細胞効果が確認されたが、一方で正常線維芽細胞においては、レセプターとテロメラーゼの両者の発現が極めて低く、アデノウイルスの感染後も増殖がなく、殺細胞効果もないことが分かった。さらに、動物実験においては、マウスの背部皮下に骨肉腫細胞株を移植して作成した、マウス骨肉腫モデルに対して、テロメラーゼ特異的制限増殖型アデノウイルスを局所投与し、治療効果を検討した。治療を行わない対照群では、骨肉腫は急速に増大したのに対して、アデノウイルス投与群では、著明な増殖抑制効果を認め、一部のマウスにおいては腫瘍の消失が確認された。以上より、in vitro,in vivoの両実験系において、テロメラーゼ特異的制限増殖型アデノウイルスは、骨肉腫に対して特異的に感染、増殖を起こし、強い抗腫瘍効果を示すことが確認でき、ウイルス療法が臨床的にも有効である可能性を示唆するものであると考えられた。今後は、他の肉腫に対する作用と、殺細胞効果発現のメカニズムについて検証を続けていく。
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