研究概要 |
私たちは造精機能障害をきたす疾患として停留精巣を研究対象とし、精子形成メカニズムについて基礎的・臨床的それぞれの面からアプローチしてきた。本研究では、精巣幹細胞およびその分化過程に着目し、この過程に関わる遺伝子を同定するとともに、疾患との関連性を明らかにすることを目的とした。平成22年度研究計画では、ラット精巣から精巣幹細胞の分離培養を試み、停留精巣特異的遺伝子(EEF1A1, TPT1, NuMA1)の経時的発現について検討を行っている。 生後3~4週齢のS-Dラット精巣を摘出し、白膜を除去。培養液中で細切した後、collagenaseおよびdispase処理によって細胞を分散した。4μmメッシュを用いて均一の大きさの細胞を選別したのち、I型コラーゲンでコートした培養皿にまくことで、コラーゲンに接着する体細胞と、接着しない生殖細胞とに分離した。浮遊細胞をラミニンコート培養皿にまき、ラミニンに接着する精巣幹細胞分画の分離を試みた。本年度行った実験では、dispase処理のみでは均一に細胞分散できないことが明らかとなり、collagenaseが有用であることが判明した。生後3週程度の精巣6-10個を使用すると、得られる細胞数は、1×10^7個~1×10^8個であることが明らかとなった。 さらに、出生直後から生後4週まで、経時的に精巣組織を摘出・凍結保存しておいたサンプルを用いて、停留精巣特異的遺伝子の発現解析を行った。EEF1A1遺伝子およびTPT1遺伝子について解析を行ったところ、いずれも生後10日頃に発現のピークを認めた。精巣幹細胞マーカーであるUTF1遺伝子発現解析から、生後9日頃に前駆細胞からA型精原細胞への分化が認められるため、この発現パターンは、A型精原細胞分化を反映している可能性が示唆された。EEF1A1・TPT1遺伝子はいずれも停留精巣組織で高発現を示し、細胞の自己複製能や未分化性維持に関与するとされている。本年度の結果をもとに、次年度ではこれらの遺伝子の精原細胞内での機能解析を進めていきたい。
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