研究課題
私たちは造精機能障害をきたす疾患として停留精巣を研究対象とし、精子形成メカニズムについて基礎的・臨床的それぞれの面からアプローチしてきた。本研究では精子幹細胞およびその分化過程に着目し、この過程に関わる遺伝子を同定するとともに、疾患との関連性を明らかにすることを目的とした。前年度までに、ラット精巣から精巣幹細胞の分離培養を試みた。生後3~4週齢のS-Dラット精巣を摘出し、白膜を除去。培養液中で細切した後、collagenaseおよびdispase処理によって細胞を分散した。40μmメッシュを用いて均一の大きさの細胞を選別したのち、I型コラーゲンでコートした培養皿にまくことで、コラーゲンに接着する体細胞と、接着しない生殖細胞とに分離することができた。浮遊細胞をラミニンコート培養皿に撒き、ラミニンに接着する精巣幹細胞分画の分離を試みた。昨年度行った実験では、dispase処理のみでは均一に細胞分散できないことが明らかとなり、collagenaseが有用であることが判明した。生後3週程度の精巣6-10個を使用すると、得られる細胞数は、1×10の7乗個~1×10の8乗個であることが明らかとなった。本年度では、さらに幼若なラット(生後3~14日)の精巣組織を採取して同様の実験を行ったところ、20-30個の精巣から、1×10の5乗個~1×10の6乗個の細胞を得ることができた。また、これらの細胞について、幹細胞の表面マーカーである、c-Kit、UTF1、PLZF、Ngn3などの各遺伝子発現を定量PCRで、局在を免疫染色で検討した。正常精巣と停留精巣の両者で検討したところ、停留精巣由来の幹細胞では、c-Kit および PLZF が有意に発現亢進していることが明らかとなった。
3: やや遅れている
当初の研究計画では、精子幹細胞の培養系を確立するとともに停留精巣からも同様の細胞培養系を確立し、細胞表面マーカーや停留精巣特異的遺伝子の変化について検討を行う予定であった。しかしながら、正常精巣由来の精子幹細胞の培養系がいまだ不安定であるとともに、より幼若な週齢の精巣組織でも同様の検討が必要と考えられたため、多くの実験動物を用いた実験が必要となった。また、時期によって、精子幹細胞に発現する表面マーカーが変化することから、経時的な変化を解析するための発現プロファイリングが不十分であるため、当初の研究計画からはやや遅れていると自己評価した。
これまでの研究成果では不足している点を再検討するとともに、他の研究員からの助言や技術職員の補助をもとに本年度で行うべき研究内容についてタイムスケジュールを作成して実施したい。具体的な内容として、精子幹細胞の回収量を増やすため、磁気ビーズを利用した細胞選別法(autoMACS)を利用する。また、より幼若な精巣からの精子幹細胞の分離・培養についても確立したい。また、発現プロファイリングの解析については、関連遺伝子に関するものを網羅的に解析できる、市販のキットや受託サービスの利用などによって、効率良く研究を進めたいと考えている。
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