研究概要 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床応用には、採取の容易な組織細胞からiPS細胞を効率よく作製する技術が重要となる。歯肉は歯科治療の過程で切除される機会の多い組織であり、切除歯肉片は一般的に廃棄されている。本研究の目的は、患者の口腔粘膜(歯肉)に由来するiPS細胞を移植材料として,歯槽堤(歯槽骨1粘膜)再建の基盤技術を創生することである。前年度には、成体マウスの歯肉由来線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて山中4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)あるいは癌遺伝子c-Mycを除いた3因子を導入することで容易にiPS細胞が樹立可能であることを見出した(Egusa et ol.,PLoS One,2010)。本年度には、患者由来歯肉線維芽細胞に同様の手法(3因子導入)を用いることで、ips細胞が効率的に樹立可能であることを明らかにした。また,移植に安全なiPS細胞の作製を目指し,ウイルスベクターの代わりにプラスミドベクターを導入する方法を用いて患者歯肉線維芽細胞からiPS細胞の樹立に成功した。これらのiPS細胞は胚性幹細胞(ES細胞)特異的な遺伝子発現を示し、エピジェネティクス的にも初期化されていること、およびテラトーマ形成実験にて三胚葉に由来する組織への多分化能を有することが確認された。また、樹立したマウス歯肉由来iPS細胞から骨芽細胞への分化誘導法を確立し、誘導した細胞がハイドロキシアパタイトの結晶構造を有するまで成熟した石灰化を示すことを明らかにしている。今後、この分化誘導細胞を用いた三次元培養骨(細胞/ゲル構造体)の作製技術を確立し、その移植先における骨再生作用を検討していく予定である。
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