歯胚発生には様々な因子の関与が報告されてきたが,歯の組織の分化や形態形成メカニズムの大部分は未だ不透明である.今年度は,歯の発生過程を理解するため,30日齢の胎仔の永久歯歯胚を摘出し,同胎仔に自家移植を行なった.その結果,大変興味深いことに,移植した歯牙は通常二根で発生するのに対し,一度摘出した歯胚を別の部位の顎骨に移植した結果,発生した歯根は一根であった.つまり,発生過程にある歯根の分岐は歯牙ではなく,顎骨側に制御因子がある可能性が強く示唆された.現在,歯根の分岐に関わる遺伝子を同定するため,レイザーマイクロキャプチャーダイセクションを用い,発生過程に有る歯胚の根分岐部および根尖相当部の顎骨組織を回収し,cDNAマイクロアレイにて網羅的に検討を行う予定である. また,ヒト組織および細胞をin vitroで立体構築することで歯が発生するかを検討するため,まず,エナメル芽細胞とその前駆細胞を含むヒト歯小嚢組織とヒト培養間葉細胞の再構成を行なった.つまり,ヒト培養間葉細胞としてはヒト歯乳頭由来幹細胞(SCAP)を使用し,上皮細胞層を含む歯小嚢組織上に直接間葉細胞を播種した群と,シート状に培養した間葉細胞で歯小嚢組織を被覆した群をそれぞれ短期間培養し,SCIDマウス背部皮下へ移植し,歯胚発生が起こるか現在経過を追っている.
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