甘味による一時的な痛覚抑制効果は、海外において新生児領域で応用が試みられているが、それ以外の対象では検証自体がこれまでほとんど行なわれていない。本研究の目的は甘味による痛覚抑制効果がどのような鎮痛機序で発現に至るのかを、成人を対象に明らかにすることである。まず、甘味による鎮痛効果は成人では性差が発現に関与しており、女性に比べて男性の方が効果を得やすいことを明らかにした。よって、従来は新生児領域のみで応用可能と考えられていた甘味による鎮痛手段は、成人領域でも部分的に応用できる可能性が示唆された。こうした成果は今年度行なわれた第36回日本看護研究学会の交流集会において公表し、臨床における新たな鎮痛手段としての応用が期待できることを提言した。また、甘味刺激による痛覚刺激に対する効果を明らかにするために、機能的磁気共鳴画像装置を用いて検討を開始した。次に、こうした甘味による鎮痛効果は甘味強度に依存して発現するものなのか、あるいは甘味物質であっても甘味の種類によっても異なるものなのか否かを明らかにする必要性があると判断した。そこで、高甘味度甘味料の一つを用いて、同様に痛覚刺激に対する効果について検討を開始した。その結果、高甘味度甘味料による味覚刺激は無味に比べて痛覚受容を抑える傾向はあるものの、糖類の甘味刺激とは異なる反応を示すデータが得られ始めた。そのため、現在までに得られている結果については、平成23年度に行なわれる国内の関連学会で公表するために演題登録を既に完了し、次年度もこれに関する研究を進めていく予定である。
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