研究概要 |
本研究課題は,木トランスデューサ(TT)の理論をXML文書などの構造化文書の変換に応用することを目標としている.しかし,XMLではノード間に参照関係を与えることも認めているため,循環構造や共有構造を定義することができ,TTの理論の対象である木構造データよりも一般的なグラフ構造を扱う必要がある.特に循環構造をもつグラフ構造データを処理する場合,停止しない計算が簡単に記述できないように制御する必要がある.これは本研究課題が掲げる高信頼化を達成する上で解決すべき問題である. 平成23年度においては,昨年度に取り組んだグラフ構造データの変換言語であるUnCALに対し,高信頼化に関する研究を行った.具体的には,入力となるグラフ構造データの集合とUnCALプログラムに対して,与えられたグラフ構造データが出力しうるかどうかを判定する問題に取り組んだ.入力の集合はスキーマとよばれる満たすべき仕様として与えられており,無限個の要素を含むことも考えられるため,一般にこの判定を行うことは困難である.そこで,スキーマの記述能力をうまく制限することでこの判定問題を有限の計算で解くことができることに着目し,グラフ構造データ間の模倣関係に基づくスキーマを提案し,この問題を解くことに成功した.この成果は双方向変換とよばれるデータベースの更新を容易にする枠組みと密接に関連しており,今後の実用性の検証が期待される.また,このグラフ構造データに対するスキーマのアイデアは,TTの理論におけるスキーマに相当する木オートマトンの概念からヒントを得たものであるが,具体的な対応関係は明らかになっておらず,その解明は今後の課題の一つである.この他,TTの理論によるXML変換の検証と似た手法によるグラフ構造データ変換の検証やその応用にも取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度までの成果として,本研究課題の中心である木トランスデューサよりも強力なグラフ構造データ変換に対する高信頼化を実現している.これは当初の計画以上の成果ではあるが,制限された木トランスデューサに対する検証についてはまだ高速化や実用化についての課題が残っているため,評価区分を(3)とした.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成24年度については,グラフ構造データの変換への成果に対する知見に基づき,木トランスデューサの理論の実用化に取り組む.具体的には,XQueryやXSLTなどの実用的な構造化文書変換言語に対して,高信頼化や効率化を図る.
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