本年度は、まず、トラヒック変動に対する高い柔軟性を示す静的柔軟経路制御方式のTCP親和性の向上に取り組んだ。この方式はマルチパスルーチングを実施することにより上述の柔軟性を達成するが、その一方で、マルチパスルーチングはパケットの到着順序逆転を引き起こし、その結果、TCPの性能を低下させる。昨年度に実施した予備調査により得られた知見に基づき、我々はマルチパスルーチングの候補経路集合として、互いの遅延の差が極力小さい経路を選択することによりパケット順序逆転の発生頻度を低減するような静的柔軟経路制御方式を提案した。計算機シミュレーションによる評価の結果、我々の提案方式は従来方式と比較してTCPスループットを最大で27%程度改善することを明らかにした。 続いて、トークンパッシング型メディアアクセス制御方式を採用した光トレイルネットワークを対象として、そのスループット改善に取り組んだ。昨年度提案したトレイル分割方式は下流トークン保持ノードのみでのトレイルの分割および上流/下流トレイルでのデータの並列転送を実施していた。本年度は、さらなるスループットの向上のために、下流トークン保持ノードだけでなく上流トークン保持ノードにおいても上述のトレイル分割および並列データ転送を実施するようなトレイル多重分割方式を提案した。提案方式を用いた際のスループット最適化のために、各送信ノードのトークン保持時間設定問題を線形計画問題として定式化し、それを数理計画ソフトウェアにより解くことにより最適なトークン保持時間を導出した。数値例では、提案方式は昨年度提案した方式と比較して、最大で1.93倍のスループットを示すことを明らかにした。
|