2012年度は、実際に無線通信システムを用いた場合の現象の調査を行い、より高性能な通信を行うための手法の開発を行った。現在のインターネットプロトコルを用いた通信では、インターネットプロトコル層、データリンク層、物理層がそれぞれ完全に独立しており、また、それぞれの層で最適となるようにパラメータ調整が行われるため、例えば再送がデータリンク層とインターネットプロトコル層の双方で起きる等のコンフリクトにより、通信効率の低下を招いている。そこで、様々なパターンにおいて理想環境で通信状況を計測し、問題点の把握をおこなった。また、マルチホップ通信環境化における通信性能の計測も行い、ホップ数の増加に伴って、理想値より急速に性能低下がおきることが確認できた。 また、上記の状況を鑑みて、幾つかのメッシュネットワークプロトコルに関する計測をおこなった。計測を行ったプロトコルは商用に使われているCISCO社の独自プロトコル、AODV、OLSR、B.A.T.M.A.Nなどである。計測環境の制限から、幾つかのプロトコルに関しては良好な結果は得られなかったが、商用のプロトコルは性能を犠牲にして安定した通信ができるようにパラメータ調整されており、一方研究で使われているプロトコルは理想環境を想定しているため、結果として極限られた環境下でしか高い性能を得ることができないことがわかった。 これらの知見より、リアルタイム系のマルチホップ通信プロトコルは性能維持が難しく、2011年度までに開発したような、ストア&フォワード型のプロトコルが車車間通信においては特に望ましいことがわかった。また、シミュレータにおいては、無線部分のシミュレーションを細かく行っても、実環境をうまく反映できておらず、シミュレーション分野における新たな研究の余地があることがわかった。
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