本研究は、多人数共同作業場面における、非言語行為主体の意図伝達メカニズム解明を目的としている。立体構造物の開発や組み立ての教示といった、共同物体操作などの触力覚による非言語的意図伝達も多く行われる場面では、意図表出や解釈の過誤が多く発生している。そこで物体操作に伴う触力覚など多様な非言語モダリティを利用した、共同作業のインタラクションモデルを開発し、同モデルを用いて意図伝達不全状況を検出し、作業空間の安全・安心の確保に寄与することを目指している。共同作業課題として、複数人での把持と操作が可能であり、移動操作状況や把持行為等による応力変化も記録が容易な形状の立体構造物を用意し、立体構造パズルの組み立て課題実施環境を構築した。非言語行為による意図伝達の成否を明確にするため、発話の制限とあわせて、立体構造物の把持箇所を制限し、構造物一対の位置合わせを行う単純化した課題を設定した。組立知識を持つ1名と持たない1名の計2名による共同作業とした。 本年度は、実験結果の分析を進めている。有知識側被験者による、顔角度やジェスチャによる明示的な指示動作は、多くの事例で観察された。一方で、無知識側被験者によるこれら指示動作の理解は十分ではなく、操作方向の齟齬が観察された。意図伝達の齟齬状況下において、有知識側被験者には、明示的指示動作を繰り返して意図理解を待つ場合と、立体構造物自体の強調的(意図的)移動により直接的指示動作を行う場合が観察された。無知識側被験者では、意図伝達齟齬の有無に関わらず、自らの理解に沿った移動を試みる場合と、把持から脱力して移動を有知識側被験者に委ねる場合が観察された。本実験結果から、特に無知識側被験者の共同作業戦略の類型化が可能であり、採用戦略に応じて移動方向等の補助的情報を提供することで、共同作業の安全安心に寄与することが可能と思われる。
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