研究概要 |
本研究では両眼視野闘争下における能動的な視覚刺激の変化による知覚交替の応答速度および時間特性を利用した全方位の独立視認を擬似的に実現する装置の開発を目的としている.平成22年度には,本研究で用いる両眼に任意の方角の視野を呈示するウェアラブルシステムの開発を行った.開発システムは,3軸加速度センサが実装された無線通信式の操作インタフェース.頭部着用型のカメラ姿勢制御,両眼独立提示が可能なヘッドマウントディスプレイ(HMD)により構成される.本システムは,操作インタフェースから得られた信号に基づき2台のカメラの姿勢制御を行い,その際,カメラにより撮影された2つの映像を両眼に別々にHMDを用いて提示することで,疑似的な両眼独立視を行う. また,開発したシステムを用いた基礎実験を11人の健常な被験者を対象に実施した.実験は,着席させた被験者の両側に3×3のマス目を設置し,両サイドのマス目のそれぞれ1箇所にターゲットをランダムに配置し,被験者にターゲット位置の探索・解答させるという内容である.本実験は,開発システムを着用した場合と何も着用しない通常状態についての2通りそれぞれ20回実施した.実験結果として,正答率と応答時間の平均値を求めた.実験を行って得られた結果から,開発装置を用いた場合については,正答率が0.85-1.0であり,通常状態の実験結果も0.9-1.0であったことから,両眼独立運動状態でもヒトは周囲の状況を理解することが分かった.また,応答時間については何も看用しない通常状態に比べ,150-400%のオーダの時間を要することが判明した。このことから.開発システムは,素早い応答を要しないアプリケーションに応用するべきであることが分かった.また,被験者間に見られる応答の遅延時間に差が生じているため,システムの使い方,被験者毎の認知特性などを調べることでこの応答時間の遅延のばらつきが生じる原因の解明を行う必要があると考えられる.
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