ここでは2種類の成果について述べる。 1つ目の成果は、詰将棋を解くアルゴリズムを陰で支えるヒューリスティックスについてである。探索アルゴリズムの骨子は単純明快であるべきだが、適切なヒューリスティックスは個々の思考ゲーム特有の事情をうまく吸収し、探索アルゴリズム本来の性能を引き出す意味で重要な技術である。そこで、詰将棋をdf-pnアルゴリズムで解く際の効率的なヒューリスティックスの組合せについての研究を行った。その結果、ある3つのヒューリスティックスの組合せによって詰将棋を解く速度を20%以上高速化することに成功した。 2つ目の成果は、難解な必至問題を高速に解くアルゴリズムとしてdf-pn+を応用し実装したことである。特筆すべき工夫は、指し手の生成順序、局面間の優越関係、証明駒・反証駒の拡張、無駄合い処理の拡張である。実験の結果、難解な必至問題として有名な『来条克由必至名作集(以下、来条必至)』全81問のうち79問を計算機で解くことに成功した。『来条必至』は最長37手という難解な必至問題である。これらの必至問題の殆どを1秒以内に解いた。解けなかった2問は問題図に不備があるものと思われる。また、余必至探索にて4つの早必至を含む多数の余必至を発見した。余必至とは別解のことであり、存在しないことが望ましい。必至問題の作者は、膨大な時間をかけ別解のない問題を作品として発表している。その中で多数の余必至を発見した。特に第73番の作品の9手目から生じる長手数の余必至のインパクトは大きい。この作品は『来条必至』の中でも作者自身「本書中最高の作」と評し、専門家も「5本の指に入る最高の作品」と評す作品である。そのような名作に余必至が発見されたことは特筆に値する。さらにこの余必至の手順の長さ(問題図からだと71手)も驚異的で、計算機でこのような必至手順を発見できるようになったことは画期的である。
|