研究概要 |
本研究課題では,人工知能の判断力が高度に訓練された人間の判断力に匹敵しうる分野を対象に,計算機を用いて人間の判断を支援する手法を研究する.様々な状況で人間が判断を行う場合には(1)現在の状況を認識し,(2)起こりうる未来を予想し,(3)起こりうる未来を比較検討したうえで(4)どの行動を行うかを決定するとモデル化できる場合が多い.そして適切な判断を行うためには,それらのすべてが正確である必要がある. 平成22年度は,計算機の実力が人間のトップレベルに迫ると言われている将棋を対象に,未来予測の支援と,分析・判断の支援の両方を効果的に行う方法を研究した.実験ではまず人間と計算機の思考の差異について,特に人間は有力な手順に絞って狭く深く読み,計算機は有力でない手順も含めて網羅的に読むと言われる部分を検討した.そして,人間の深い思考を越えるためには,大量の計算機クラスタを用いた探索を行うことと,場合の数が特に増える終盤の寄せに関する部分で詰み専用のアルゴリズムを並列に動作させることで選択肢を絞ることが有力であることが分かり,それぞれ改善を行なった.続いて機械学習技術の適用を検討し,人間の思考記録である棋譜を用いて形勢判断を計算機に学習させるという実験を行ない,学習後にはごく浅い探索でも40%程度の割合でプロの選択との一致が可能であるという結果を得た.この結果から学習で得られた形勢判断と,計算機クラスタ等により強化された探索技術を組み合わせると,人間への助言に関しては十分な実用性を待つという知見を得た.さらに.結果を分かりやすく伝える技術についても検討中である.
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