本研究課題は,分散システムにおける複数の自律的な計算主体の協調動作に関する研究分野である,マルチエージェント・分散協調問題解決の応用と高度化のために,分散制約最適化手法の動的環境への適用手法や,分散協調アルゴリズムの合成のための手法および関連する知見を得ることを目的とする. 平成24年度においては,動的環境への適応における頑健性の拡張が期待される分散アルゴリズムに注目し,各エージェントが同等の処理を対称に実行するような解法の枠組みについて検討した.この枠組みにおける動的計画法に基づく解法に,木探索処理を導入した分散協調型の解法とその課題点を示した. さらに,問題の生成から意思決定までの分散協調処理を統合する際に課題となる,複数の段階から構成される処理に起因するプロトコルの複雑さを軽減する方法に取り組んだ.ここでは,エージェントの意思決定における優先順位を解決する処理を,元の解法の評価値の計算に組み込み,箇別のプロトコルを併用すること無く暗に処理する方法について検討した. 問題や解法を形式的に操作する手法の一検討として,ジャンクション木と呼ばれるグラフ構造上で元の問題を解法に適するように変形する手法を改良し,エージェントのプライバシ情報の漏えいを軽減する手法を示した. また,昨年度にケーススタディとして扱った資源割り当て問題において生じる,エージェント間の不平等な状況を軽減する手法を改良した.さらに,これらと異なる解法の検討として,ラグランジュ緩和と双対の概念に基づく解法の改良手法を示した. これらの研究により得られた知見は,今後の分散協調型の最適化手法の生成,統合手法において一定の意義があると考えられる.
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