本研究では、最も根源的なコミュニケーション手段である音声言語能力の発達過程を観察し、人間の知能発達過程の根幹を記述する計算機モデルの構築を狙っている。感情とは心の状態であり、思考方法を切り替えるスイッチであるというMinskyの理論に基づき、感情意図ラベルを手掛かりとした発話分析をコアメソッドとして音声言語コミュニケーションスキルの初期発達過程のモデル化を目指している。平成22年度は、音声言語獲得分析の基盤となる感情意図ラベリングデータを整備し、感情意図ラベルに基づく発話行動分析システムを開発した。前者について、静岡大学で構築した子どもの行動コーパスから、低月齢群(14~32ヵ月)、高月齢群(28~46ヵ月)について各群3名ずつの発話行動事例(一人当たり400発話)に対し、感情意図ラベルを付与した。後者については、感情意図ラベルの時系列変化に着目した事例検索機能を持つマルチモーダル発話行動分析システムを開発した。「嫌悪」のラベルの出現数が、高月齢群は低月齢群から半減しており、トラブルに際して、不満を示す以外に、我慢する、代替案を提案するなど別の問題解決スキルを成長に伴って獲得するようすが観察された。また、「喜び」から「悲しみ」への変化が問題遭遇場面に対応し、このラベル変化パターンで事例検索したところ、好きな遊びを止めたくない場面で、低月齢時は自分が続けたいことを訴えるのみだったのが、高月齢になると友達にやらせてあげるよう主張することで、自分の欲求を受け入れ易くする交渉術を獲得していることが観測された。このように、音声言語コミュニケーションスキルにおける感情意図思考に関する内面的な発達分析が進められる研究基盤を創出できた。
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