昆虫の適応性を支える要素の一つである複数感覚情報の統合に焦点を当て,昆虫BMI (Brain-Machine Interface) である昆虫操縦型ロボットを用いた行動解析を中心に,「適応性」の工学再構成を目指して研究を実施した.モデルは,雄カイコガの雌性フェロモンへの匂い源定位行動とした.雄カイコガは直進・ジグザグ・ループからなる定型的な歩行パターンを繰り返してフェロモン源へ定位するが,一方向へ回転するように操作を加えたロボットを操縦するカイコガは,その操作を打ち消す方向へターンをする.このしくみを詳細に解析した結果,視覚情報のフィードバックによる補正(視運動反応)の他に,左右の触角で受容する匂い情報の差に基づく方向決定が関わっていることが示唆された.さらに詳細なカイコガの行動解析の結果,視覚情報によるフィードバックは,定型行動の直進のフェーズのみ機能することが分かった.このことから,定型行動パターンの初期の段階で複数感覚統合に基づく方向決定が行われており,引き続いて起こるジグザグ・ループのフェーズではその影響を受けないことが明らかになった.この定型的なプログラム行動と時々刻々と変化する環境からの複数感覚統合に基づくフィードバックの組み合わせにより,外乱に強い匂い源定位が実現できると考えられる.また,提案した統合モデルを検証するための新たな昆虫BMIプラットフォームとして,カイコガの操縦に外部センサからの入力を任意に割り込ませ運動を制御できる「ハイブリッド制御」が可能な新たな昆虫操縦型ロボットを試作した.
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