研究概要 |
本研究課題では道具使用を行う階層ネットワークの実現を目的にしている.昨年度は,想起ネットワークの提案を行ったが,各階層に記憶されている情報は静的な情報であったため,長期の時系列情報を想起することには向いていなかった.そこで本年度は,時系列情報を扱うモデルとして2つのモデルの認知的応用についての研究を行った. 一つは身体表現に関するモデルである.この研究では上位層のニューロンほど時間的,空間的に広い情報を表現するという仮説のもとに,ロボットが環境との相互作用の経験から得られるセンサ情報を階層的に統合するモデルを提案した.各階層ではセンサ情報から低速に変化する特徴量を抽出し,それを繰り返すことで自律的にマルチモーダルな表現を獲得できる.シミュレーション環境において獲得された表現が強化学習の状態価値を獲得しやすい空間になっていることを示した.もう一つは,リカレントモデルによってラットのT字迷路タスクにおける海馬-大脳皮質-大脳基底核の関係を表現した.モデルは,海馬における分岐構造を反映した反復想起や,分岐点ヘアプローチする場合の想起を模擬する.また,海馬による想起を大脳基底核による状態価値を合わせることで報酬予測できることを示した. 一方で,以上の2つのモデルについて,道具使用への適用に向けての問題点も明らかになった.前者のモデルでは,上位表現から下位表現への情報の流れの処理については考慮されていないためパターンの生成が難しい.後者のモデルでは,記憶することができる情報のパターンが限られており,道具使用に見られる再帰的な時系列パターンを生成することができない.最終年度では,これらの問題点を解消し,道具使用を可能にする階層モデルの提案を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,初年度に提案した階層モデルについて時間的順序を考慮したものに拡張し,言語情報処理に適用することを予定している.また,腕を持つロボットを製作して,提案モデルを実装し,提案モデルの学習能力の有効性を検証する.
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