ヒトが他の生物から際立っている能力に道具と言語の使用があげられるが,この二つの能力はミラーニューロンの発見により密接な関連が指摘されている.本研究では,道具使用と言語の間にある情報処理メカニズムの共通性を構成的に示すことを目的とし,時間順序の階層的な運動制御に着目して,道具使用が可能な運動制御モデルの提案を行い,階層的なニューラルネットワークによる言語の統語機構のモデル化を行った. 階層的な運動制御モデルでは,多階層のニューラルネットワーク学習モデルである Deep Belief Network を利用して,状況に応じて道具使用を行う階層ネットワークの構築を行った.このネットワークでは下位は関節角度情報や物体の種類などの視覚情報を取り扱い,上位は状況に対応している.このネットワークでは入力に応じて,上位の階層の状態が変化し,それがさらに下位の階層に影響を与えて次時刻の安定状態を決定する.言語獲得に関しては,運動の記述に関して多様な運動軌道を言葉と結びつけるために Talmy らによって提案されている Force Dynamics 理論を実装し,運動軌道の抽象化と言語と親和性を結びつけるMultiple timescales recurrent neural networkを使ったネットワークを構築した.その他にも上位層のニューロンほど時間的,空間的に広い情報を表現するという仮説のもとに,ロボットが環境との相互作用の経験から得られるセンサ情報を階層的に統合するモデルの提案などを行った.本研究で提案したこれらのモデルをもとに,今後の研究課題として,言語生成や適応的な道具使用が可能なより統一的な階層ネットワークモデルの構築や,道具使用モデルの実機ロボットへの実装を通した応用的研究に取り組むことを予定している.
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