研究概要 |
本研究は,脳機能に基づく音素識別システムを構築することで,聴覚感性における脳機能の解明を目指すものである.神経生理学研究及び心理研究により得られた聴覚野に関する知識・実験結果を参考に聴覚システムとして構築するが,当面の対象として音素,まずは母音の識別を扱い,システムとして実用レベルの成果を得ることを目標とする.平成22年度は,神経生理学的測定によって明らかになった大脳皮質第一次聴覚野(Al)神経細胞の特徴をソフトウェア上で構築することを主とした.ヒトの母音に反応するネコAl神経細胞には反応多様性があり,phasic cellは母音の開始,終了,振幅の一過性変化を分析し,sustain cellは音声のホルマント周波数分析を行っていること,ホルマント分析は刺激エネルギーと細胞の興奮性と抑制性応答野とのスペクトル位置の相互関係により行われ,ゆえに,母音の弁別にはsustain cellが支配的であることが示された.sustain cellの音の大きさに対するスパイク反応は,刺激音圧の上昇はスパイク頻度の上昇、刺激音圧の下降はスパイク頻度の下降によって符号化される可能性が示唆されており,この特徴から,スパイク時刻を入力音の音圧の関数として定式化した。また,音の高さに関しては,Alでは最適周波数の異なる神経細胞が地図状配列していることがすでに分かっていることから,フィルタリングによって周波数分割することで対応した。これらを組み合わせることで構築したシステムに,音圧変調音及び周波数変調音を入力したところ,生理実験系と矛盾しない出力が得られている.
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