研究概要 |
今年度は,仮現運動知覚に基づく物体認識と明るさ・色知覚の間に関連があるかどうかを明らかにするために複数の心理物理実験を行った.いずれの実験においても,異なる位置に円形ターゲットが一つずつ順に呈示されていき,ターゲット呈示間の壁間間隔(SOA)によって仮現運動が知覚されるかどうかが統制可能な刺激を用いた.また,隣り合って呈示される円形ターゲット間では輝度あるいは色が異なっており,被験者に輝度・色の違いの有無を判断させることにより,明るさ・色弁別に対する感度を様々な実験条件下で測定した.得られた主な結果は以下の通りである.(1)運動が知覚されるSOAでは,他のSOAと比較して明るさ・色弁別の感度が低下する,(2)同じSOAでも円形ターゲットを背景と等輝度にする(すなわち運動知覚が弱まる)と,明るさ・色弁別の感度低下が生じなくなる,(3)多義仮現運動刺激を用いて,内的な運動知覚状態のみを変えても,明るさ・色弁別の感度は変化しない.以上の結果から,仮現運動が知覚される刺激に対してはその運動軌跡上で明るさ・色の情報が平均化されてしまうこと,および,その平均化は主観的運動のみから直接引き起こされるわけではないことが示唆される.このことは,仮現運動から単一物体を認識する過程の比較的低次な段階で物体の明るさや色の見えを安定化させるメカニズムが存在する可能性を示す.来年度は明るさや色の変化に対する感度が低下する条件を絞り込むことにより,物体認識と明るさ・色知覚の関連性を明らかにしていく予定である.
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