本研究年度では、サルのトレーニング、128ch-ECoG電極のインプラント、実験装置・刺激の整備、および複数の予備実験を行った。各段階において大きな問題は生じず、本研究課題は順調に進行している。 予備実験から得られたデータを解析したところ、信号の振幅をデータとして用いた場合、見ている刺激映像の予測精度はある実験では80%(チャンスレベルは33%)以上に達していた。一方で、感情や社会的文脈といった高次認知活動については、予測精度はチャンスレベルと同等であった。そこで各電極間のGranger因果を計算し映像刺激ごとに比較したところ、感情や社会的文脈の条件間で有意な差が検出された。これらの予備実験から、ビデオ映像観察中のサル脳の視覚応答や聴覚応答、すなわち初期知覚過程に関しては、いくつかの電極から得られたECoG信号の振幅のみによって、検討が可能であることが示唆された。一方(2)感情や社会的な文脈の認知といったより高次な認知機能については、振幅の変化からは検討が不可能であり、複数の電極間(脳領域間)の機能的関係性の変化によって捉えることが可能であることが示唆された。 本研究課題は、観察している情動の脳内表現とその復号化であるが、その基礎となるデータ解析法を本研究年度内にほぼ確立できたことは大きな進歩であると考えられる。さらに本研究年度では当初の計画にあった深部電極を使用せず、ECoG電極のみの使用で上記の結果を示すことができた。すなわち、これまで感情認知の座と考えられていた扁桃体などの脳深部領域を記録する必要がなくなるため、より侵襲性の低いBMI手法を確立できる可能性が明らかとなった。したがってこの解析手法を脳波などに応用すれば、ヒトでの非侵襲的な研究を推進することが可能であり、当該研究領域だけではなく、ヒトの脳機能診断等、応用面においても大きな意義がある。
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