本研究年度では、社会的な文脈を付加した映像A(怒りまたは中立)の後に、恐怖を表出するサルの映像Bを提示し、その映像刺激を観察中のサル3頭の脳から128ch-ECoGデータを記録した。なお解析には、映像B提示中の脳活動のみを使用し、映像Aの種類でそれを比較した。これによって視・聴覚刺激の違いによって直接的に生じる脳活動の変化を排除し、直前に観察される映像Aの効果(すなわち社会的情動文脈)を検討することが可能である。これまでの感情認知研究のほとんどは、視聴覚情報による脳活動の変化と感情認知による脳活動の変化とを明確にすることはできなかった。本課題によってその問題点を克服できたことは、大変意義がある。 128ch-ECoGデータは膨大であり、特に多数の電極間の機能的な結合を検討するためには、新たな解析手法の開発が必要となる。本研究年度では、その解析手法の開発に重点をおいて進められた。まず独立主成分分析によってデータの次元を圧縮した。これによって次元を圧縮し、また共線性情報を排除でき、さらに重要な時空間情報(信号の周波数と電極位置)の抽出が可能となった。次に有向伝達関数(DTF)を用いることによって、当課題に関係のある皮質領野を同定した。これまでも多くの実験で多電極計測が利用されてきたが、その解析法は端緒についたばかりである。その解析法を本研究で確立したことは今後の研究を推進する上で大変重要な成果である。 本研究の結果から、中立の映像Aが先行するときと比べ、怒りの映像Aが先行する場合に、映像8観察中の脳の各領域に強い機能的な結合が見られることが示された。すなわち先行する社会的な文脈が後の刺激映像の認識に影響を与えることを脳活動から明らかにした。したがって情動を認識する際の脳の特異的な活動を推定パラメータとすることで、本研究の最終目標である感性BMI構築の足掛かりを得るに至った。
|