研究概要 |
自然界に存在する多くのシステムは,多数の要素が複雑に相互作用する多変量システムである.システム全体の振舞いは複雑化し予測や制御が困難になり,近年の経済危機や地球温暖化といった社会問題を引き起こす.問題解決のためには,システムの詳細を理解することが必須である.そのために本研究では,データのサンプリング方法から再検討した.サンプリング方法を誤れば,いかに優れた解析法を用いてもシステムのメカニズムは検出されない.本研究では特に,価格変動のようなジャンプ過程に対して最も適切なサンプリング方法を明らかにした.価格変動に着目した理由は,これも複雑な多変量システムによって生成される物理現象であるからである.たとえば株式市場では,それぞれの株式銘柄は単独で変動するのではなく,様々な銘柄からの影響を受ける.その結果,システム全体の振舞いはますます複雑化する.つまり複雑システムを解釈するには,因果構造を理解することが重要である.そこで本研究では,予測精度を向上させる要素ペアを検出することで因果推定を行う方法を検討した.さらに予測技法についても見直した.これまでの手法では,予測値に対する信頼度(=自信)を示すことができなかった.そこで,予測値と同時に予測が外れるリスクをも評価し,予測が難しそうな時は予測を避けることで,予測の安全性を向上させた.さらにこの予測リスクの概念は,ポートフォリオ選択理論に応用できる.従来のポートフォリオ理論では過去の価格変動を単純平均することで期待リターンを予測していたが,非線形予測法を融合することで期待リターンの予測に多様性を与えた.その結果,投資パフォーマンスを向上できることを示した.なお,ポートフォリオ選択問題は多目的最適化問題(MOP)の1例である.最適化問題の解法は多様にあるが,中でもカオスニューラルネットワーク(CNN)は単一最適化問題において高性能を示すことが知られているものの,MOPに適用した事例は無かった,そこで本研究ではCNNをMOPに活用できるかを検討したところ,最も代表的な遺伝的アルゴリズムよりも優れたパフォーマンスを得ることができた.今後は,ポートフォリオ選択問題などの実問題に対して検討を行う.
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