本研究の目的は、ヘラチョウザメ、およびマウスの感覚器官に関する生理学的知見に発想を得て、センサシステムを開発することである。この目的を達するために、平成24年度は、マウス味蕾細胞の電気生理学的知見をヒントとした数理モデルの作成、および電気受容器を持つ魚の電気刺激に対する行動実験を進め、それらの感覚受容の仕組みに発想を得た信号情報処理回路の開発を行った。 味蕾細胞の数理モデルの研究として、マウス味蕾細胞のII型細胞とIII型細胞の数理モデルを作成した。その数理モデルを用いて、外向き電流の味蕾細胞型依存性の違いによる活動電位の形状の違いを明らかにした(JNNS2012で発表)。センサシステムの検出部の符号化回路に関する開発では、入力信号の質と強度を神経パルスの同期の程度と発火頻度として符号化する回路について特許申請を行った。検出部からの神経パルスをフィルタリングする神経回路の結果を味蕾細胞モデルの結果と併せて発表した(Workshop on Brain-Inspired Systems)。 魚の行動実験においては、電気受容器を持つ魚として、ヘラチョウザメに代えてグラスキャットフィッシュの行動実験を行った。水中へ周期的な電気刺激を加えた時のグラスキャットフィッシュの行動をハイスピードカメラにより撮影し、行動を解析した。行動解析のために、魚の位置を追跡する画像処理ソフトウェアを独自に開発した。水槽を仮想的に三分割して、グラスキャットフィッシュの位置を追跡すると、低い周波数の刺激の場合に刺激電極のある空間を有意に避けた。電気刺激に対して、グラスキャットフィッシュは索餌行動を示さなかった。比較として、電気受容器を持たないヒメダカの行動も記録した。ヒメダカの場合、電気刺激に対する忌避行動も索餌行動も示さなかった。成果を国際会議(NCSP13)で報告した。
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