本研究は、聖書学におけるギリシャ語新約聖書の主要な校訂本を対象にして、写本の異読情報を付帯した意味ネットワークを構築し、グラフ理論に基づいたネットワーク分析を適用する。複雑な校訂本の体系をネットワーク構造として捉えることで、従来の文献学の方法論では困難であった校訂本の影響関係や写本の選択傾向を計量的に分析し、諸校訂本の比較を行うことを目的としている。 主要近代校訂本の比較研究には、類似するテキストに対してテキストマイニングの手法を適用した。共通する文章に埋もれている微小な違いに焦点をあてながら、類似テキストの差異の抽出を試みた。分析テキストとして、ギリシャ語新約聖書の代表的な近代校訂本を選定し分析の対象とした。そして、新約聖書学で定本とされているNestle-Aland のギリシャ語新約聖書を基準テキストとして使用しながら、諸本間の相違点について観察した。ミクロな視点からのアプローチとして、各文書の特徴語彙を手がかりとして文章を比較参照し、使用語彙の違いを調べた。一方、マクロ的な観点からのアプローチとして、テキスト全体に対して小単位の単語類似度計算を行い、その計算結果である俯瞰図からテキストの異同部分を観察した。 また,異本比較研究のための使用容易なツールのプロトタイプとして,テキストの計量分析から得られる諸本間の類似度結果とディジタル批判本を組み合わせてできる異本データを,TEI エンコード方式に準拠した形式で作成し,テキストの異本箇所を視覚的に表現するアプリケーションを構築した。
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