前年度までの調査結果を基礎に,1)図書館経営理論の構築手法の確立と2)その構築手法に基づいた図書館経営理論の提示という2つの枠組みに基づいて,図書館経営における理論を提示した。 第1の枠組みでは,1)営利組織を対象とした経営理論の適用事例を分析することで,図書館経営における理論上の課題と図書館経営に固有の特徴を明らかにした。次に,2)経営理論の特徴と構築方法を分析することで,図書館経営に適した理論構築手法を選択した。そして,この2つの検討結果に基づいて,図書館経営の理論構築手法を確立した。 第2の枠組みでは,1)第1の枠組みで確立した理論構築手法を用い,前年度までの調査で入手したデータを基礎に,アメリカと日本における16の図書館を対象とした詳細な事例分析をおこなった。期間は1960年代から2010年代である。そして,2)事例分析の結果で明らかになった図書館における業務と組織形態を総合的に解釈し,それを基礎に論じることで「図書館における経営戦略と組織理論」を提示した。この理論は,4つの基本戦略と8つの個別戦略から構成された。基本戦略とは,あらゆる図書館に共通する経営戦略であり,個別戦略とは,各図書館が館種や環境に応じて個別に採用してきた経営戦略である。 そして最後に「図書館における経営戦略と組織理論」と「営利組織と非営利組織の経営理論」を比較することで,図書館経営に固有の特徴を論じた。 この研究成果は,博士学位論文『図書館における経営戦略と組織理論』(慶應義塾大学,2013年1月23日)にもなっており,このことからも図書館固有の価値に基づいた図書館の経営理論を提示することに成功したといえる。また,本研究テーマは,重要であったにもかかわらずこれまでなされてこなかったものであり,その成果は,研究計画で目的として挙げた図書館経営の基盤となるものであるといえる。
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