1990年代に世界的に普及をはじめた携帯電話は、2000年代に入ってもその利用者を増加させ続けている。その牽引地域はアフリカ諸国である。かつて活版印刷が近代的意識の生成と関わる情報環境として機能した点が指摘されて久しい。そして今日の携帯電話の世界的普及はそれと匹敵する情報環境変動だと想定することも可能である。ただし、この情報環境の変動は単線的な科学技術の発展過程として捉えられるべきではない。それぞれの社会制度、地域、文化によって、技術の受け入れ方は異なる。またメディア利用の日常的実践によっても、そのメディアが社会集団に与える機能や影響は異なる。 これまでのアフリカ地域研究では、メディア技術を調査研究や援助に役立てることはあっても、彼らのメディアエコロジーと日常生活について研究されることは少なかった。しかし、実際には気候変動や社会制度の変容と同じ次元で、メディアエコロジーは人びとの生活に影響を及ぼしている。そうした状況についてアフリカ研究者は、多くの情報をもっているものの、それが現代アフリカにおけるメディアと社会のあり方に関する考察の対象となることは少なかった。そこで、後発情報化地域の文化とメディア技術の馴化過程を理解するための調査データの収集、蓄積やその資料をどのように理解するべきなのか、ケニア社会におけるモバイル・マネートランスファーサービスの利用に関わる実証的なデータを収集した。
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