研究概要 |
妨害音の多い実環境で安定した聴知覚を行うためには聴覚的補完の能力は必要不可欠である。従来,初期の聴覚処理段階での成立が想定されてきたが(Warren,1999;McAdams,1999),近年,高次要因の影響が報告され(Darwin,2005;Kobayashi et a1.,2007),従来の理論に修正が求められている。本研究では心理学的手法と電気生理学的手法を用いて予測性の効果を詳細に検討し,聴覚的補完の成立メカニズムの解明を目指す。 2011年度には,聴覚的補完の最も単純な現象である連続調錯覚における予測性の効果のレベル推定を行った。具体的には選択的順応法を用い,学習によって得られた予測性の効果が広範囲な周波数帯域に渡って生じるのか,また学習時とは異なる耳においても生じるのかについて効果の転移を定量的に測定することで,予測性のレベル推定について検討した。その結果,学習によって得られた予測性の効果は学習時とは異なる周波数帯域や耳において聴覚刺激を提示した場合にも認められた。このことから,予測性は少なくとも異なる周波数帯域情報が統合された後,また両耳情報が統合された後に,生成される可能性が示唆された。 上記の心理実験の結果を踏まえると,聴覚的補完に影響を及ぼす予測性は比較的高次の過程で形成されると予測できる。申請者のこれまでの研究から,予測形成自体には被験者の意識されないことが示されている。そこで脳波,特にミスマッチ陰性電位(MMN)を測定し,予測性の形成によって電位が変容するか,予備的検証を行った。その結果,予測可能な場合と不可能な場合ではMMNが異なることが示された。
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