研究概要 |
本研究では,社会的場面における幼児の抑制機能の発達過程を,行動実験と神経科学的手法を用いて解明することを目的とした.今年度は,3歳から5歳までの幼児を対象にして,行動実験を用いて模倣抑制の発達メカニズムを検討した.また,他者の行動の模倣時および模倣抑制時の脳内機構を神経科学手法で検討し,模倣抑制の脳内メカニズムに関する知見を得た. まず,行動実験については,ストループ課題を応用した課題を用いて模倣抑制の発達を検討した.この課題では,幼児はデモンストレータが,白いカードに対して「白」,黒いカードに対して「黒」と反応する様子を観察した.その後,幼児は,白いカードには「黒」,黒いカードには「白」と反応するように教示された.この条件(抑制条件)の成績と,デモンストレータがいない統制条件の成績を比較すると,抑制条件の成績が悪かった.また,年長の幼児は,年少の幼児よりも,成績がいいことが確認され,模倣抑制の発達過程が示された. 次に,幼児における模倣の脳内機構を近赤外分光法によって検討した.幼児に新奇なカード分類課題を与えた際に,その課題解決の方法をデモンストレータが提示し,その際の脳活動を計測した.また,模倣時の脳活動も計測し,模倣成績との関連を検討した.その結果,観察時および模倣時に運動野の一部領域に有意な活動が認められた.また,模倣成績と脳活動に関連が認められ,模倣成績が良い子どもの運動野の活動は強い傾向にあった. また,幼児における模倣抑制の脳内機構を検討した.前年度に実施した葛藤抑制の研究では,下前頭領域の活動と葛藤抑制との関連が認められたため,本研究でも下前頭領域に焦点をあてた.模倣抑制課題として使用されているカード課題中の下前頭領域の活動を計測した.その結果,模倣抑制時には,下前頭領域の一部に有意な活動が認められたが,その活動は葛藤抑制時よりも弱いことが示された.
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