研究課題
霊長類のさまざまな認知能力は、社会生活を営む上で発生する諸問題に対処するために進化してきたとする「社会脳仮説」は広く受け入れられている。この観点より、ヒトとヒト以外の動物(以下、動物)の社会的認知能力を比較し、その異同を明らかにすることは、ヒトの認知能力の進化的基盤を探る上で最も重要な作業のひとつである。本研究では、動物が自身を取り巻く社会環境をどのように概念化し認識しているのかを明らかにしていく。さらに、非社会的刺激に対する表象についても分析をひろげることで、より多角的に社会性が認知能力の進化に与えうる効果を検討する。平成23年度は、見本合わせ課題を応用した課題を用いることで、チンパンジーをはじめとする霊長類が、視聴覚を統合した他個体表象を形成するのかを分析している。さらに、視聴覚を統合した非社会的な表象として、共感覚的知覚の分析をチンパンジーを対象におこなった。また、成果の一部について、アカゲザルの他個体表象(PLoSDNE)、チンパンジーの共感覚的知覚(Proceedings of the National Academy of Sciences)を論文としてまとめ公表した。特に後者の研究は、数多くのメディアに取り上げられ、注目を浴びた。また、平成24年度に、社会的対象認知のうち個体間関係の分析をおこなう予定をしているため、チンパンジーをはじめとする霊長類を飼育している施設に赴き、ビデオや写真を撮影することで、刺激作成を開始した。
3: やや遅れている
最先端基盤整備事業「心の先端研究連携拠点(WISH)」による、設備の整備に伴い、騒音を伴う工事が長期にわたり続いたため、チンパンジーの音声録音が予定通りには進まなかった。そのため、チンパンジーを対象とした複数感覚様相からの情報を統合した他個体表象の分析が遅れている。
工事は平成23年度で終了したため、本年度あらためて、チンパンジーを対象とした複数感覚様相からの情報を統合した他個体表象の分析をすすめる。また、他個体関係の認知を分析するための刺激作成は順調であるため、こちらについては当初の予定通り実施する。また、社会的対象認知の比較対象としての、非社会的表象の分析もより広範囲に展開する。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 108(51) ページ: 20661-20665
10.1073/pnas.1112605108
PLoS ONE
巻: 6(8) ページ: 1-8
10.1371/journal.pone.0023345
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/newsdata/h/h1/news6/2011/1112061.htm