鳥類と霊長類の知覚における違いを明らかにするため,同一の課題手続きをもちいた実験を複数の種での比較研究を実施した。本研究ではパターン優位性効果に注目し,鳥類と霊長類の違いを検討してきた。ある視覚弁別課題を弁別するときに、ヒトは視覚的文脈なしで行う場合に比べ、視覚的文脈が与えられた場合に弁別が促進される(パターン優位性効果)。22年度の研究では,「/」と「\」を弁別する場合,チンパンジーとヒトでは,それらの線分に「L」という文脈を付加すると弁別正答率が高く,反応時間が早くなるという結果が得られた。23年度の研究では,同じ視覚探索課題手続きを用いた実験をハトとハシブトカラスで追試し,ハトやカラスでは,文脈付加が弁別正答率を低下させ,反応時間が遅くなるという結果が得られた。 さらに,これらの実験の結果が特定の課題手続きによるものかを調べるため,ハトおよびヒト,フサオマキザルにおいて新たに同時見本合わせ課題を用いた比較研究を実施した。22年度までの実験同様,ヒトでは文脈付加によって弁別の反応時間が早くなったのに対して,ハトでは文脈付加が弁別正答率を低下させた。また,フサオマキザルでは文脈付加により弁別正答率が高くなったことから,ヒト同様のパターン優位性効果が得られたと考えられる。これらの結果,弁別すべきパターンが,直接関係のない文脈上に呈示されたときに,霊長類は,パターンと文脈がまとまることで生じるゲシュタルトを知覚することが示唆された。一方,鳥類はそのようなゲシュタルトを知覚しないため,文脈付加によってパターンの弁別が困難になることが示唆された。
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