研究概要 |
本年度は,身体を自分で動かしていると感じる運動主体感(エージェンシー)が,自分で動かしているにも関わらずどのような条件でその感覚が失われるのかを,視覚の時間遅れを中心に実験を行うことにより研究を行った.実験では,当初の計画通り自分で自分をくすぐる運動を頭部装着型ディスプレイ(HMD)を通して観察する.通常条件では機器の制限からくる最小限度の時間遅れで自分の運動を観察する.時間遅れ条件では,Pseudo Hapticsの一連の研究にならい,提示映像を減速加速提示させた.この条件で,身体の運動と触覚には整合性は成立しているが,視覚刺激のみ不整合を起こす.このときの被験者のくすぐったさを10段階で応えるもらう主観応答の記録と,客観的指標としての身体応答を計測するために皮膚抵抗(GSR)の計測を行った.また,提示映像の時間遅れ単体の影響でくすぐったさやGSRの反応がでていないかんどうかを調べるために,自分に触れることなくくすぐる運動をしてその提示映像を加減速させる条件もコントロールとして,条件に加えた.実験の結果,主観応答のくすぐったさにおいて自分でくすぐっているにもかかわらず,視覚映像を時間遅れさせることでくすぐったさが大きく変化し,増強することがわかった.これは,くすぐったさに関わる運動主体感の議論において,自己運動とそのときの触覚のずれがくすぐったさの感覚を生じるとする従来研究に対して,自己運動とそのときの触覚にずれが生じなくても,視覚の整合性が崩れるだけでくすぐったくなることを新たに示す結果となる.つまり,身体を自分で動かしているという運動主体感は視覚,触覚,体性感覚(運動)の統合が関係する現象であるいえる.
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