研究概要 |
本年度は,初年度に行った実験をもとに,より精緻な実験を行い,身体を自分で動かしていると感じる運動主体(エージェンシー)が自分で動かしているにも関わらずどのような条件でその感覚が失われるのかを明らかにする実験を行った.初年度には,頭部装着型ディスプレイ(HMD)を通して自分の運動を観察する実験を主にHMDの使用に慣れている被験者を用いて行ったが,本年度にはデータをより正確なものにするために,HMDの使用に慣れていない被験者を用いて実験を行ったところ,前回と異なる結果を得た.これはHMDの使用に慣れている被験者は機器に対する信頼感があるが,使用に慣れていない被験者は,時間遅れの映像を機器が故障したと解釈してしまっていることに起因していることがわかった.本来,これは本質とは異なる問題ではあるが,研究としてはこの問題を解決することは必要不可欠であり,この問題を解消して一般性のある結果を得られることが重要な課題となり,これを行った.そのため,HMDの使用に慣れていない被験者にも対応できるようディスプレイ型実験環境の構築を行った。その実験の結果,主観応答のくすぐったさにおいて自分でくすぐっているにもかかわらず,視覚映像を時間遅れさせることでくすぐったさが大きく変化し,増強することがわかった.これは,自己運動とそのときの触覚にずれが生じなくても,視覚の整合性が崩れるだけでくすぐったくなることを新たに示す結果となる.つまり,身体を自分で動かしているという運動主体感は視覚,触覚,体性感覚(運動)の統合によって生じていることを明らかにした.
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