研究概要 |
これまでの研究は,高齢者は自身の記憶能力を適切に評価することが困難であり,記憶に対する評価(メタ記憶)と実際の記憶成績が乖離していることを報告している。実際の記憶機能とメタ記憶の乖離は,加齢による記憶機能の低下に対する自発的な対処を阻害する原因となり,また,必要以上に自身の能力を低く見積もることが自尊心の低下を引き起こし,社会的引きこもりにつながることも示唆されている。 前年度はメタ記憶の中でも,記憶課題遂行時の容易性判断や,記憶想起時の確信度といったモニタリングに着目し,高齢者が記憶課題の成績を適切に予測できているのかどうか検討を行った。本年度は,記憶モニタリングに影響する要因を検討することを目的とし,記憶モニタリングの正確性と年齢,認知機能,抑うつ,および記憶に対する不安や自信といった信念との関連性を検討した。高齢者43名(平均年齢72.79歳,範囲63-85歳)を対象とし,実験を実施した結果,記憶モニタリングの正確性には年齢,認知機能,記憶に対する信念は影響していなかった。一方で,抑うつ得点が高いほど,記憶モニタリング(記憶の確信度評定)の正確性が低下することが明らかとなった。本研究の結果から,高齢者は自身の記憶機能を客観的に分析し,課題の難易度を評価しているわけではなく,課題の難易度や学習できたかどうかの判断には「高齢期になると記憶は低下するもの」といったステレオタイプ的な信念や,その時の気分状態が影響していることが示された。
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