本研究では、今現在の自分の状態を標識・保証する自己モニタリング機能を感覚知覚体験という観点から捉えるべく検討を進めた。まず、主観的消失現象を用いて、物理情報の変化を体験する状況と物理的には存在しない主観的な情報の変化を体験する状況とを区別する能力を測定する心理課題で、物理情報の変化が急激かつ顕著なものでない限り、物理的に存在する情報を体験しているか否かの区別は非常に困難であることを示した昨年度の知見を拡張し、物理的な視覚情報が200msから400ms程度かけて変化するときに特に区別が困難になること、変化する視対象が静止していても、動いていても同様の結果が得られることが明らかとなった。関連して、自己モニタリング不全をもつという統合失調症との連続性が仮定される統合失調型パーソナリティ傾向に着目し、傾向の弱い被験者に比べて、傾向の強い被験者は視野位置によっては主観的消失が生じるまでに時間がかかること、また主観的消失の持続時間が短くなる場合があることを見出した。本研究は、感覚知覚体験における自己モニタリング機能およびその諸側面は心理測定法の工夫により分析・評価できる可能性を示しており、さらに統合失調症・統合失調型パーソナリティ研究を組み合わせることは、自己モニタリング機能を多角的に捉え、臨床応用への道筋を開く意味で重要になると考える。上記の他、モニタリングを支える主要感覚の1つである触覚刺激の知覚が触覚刺激の提示時間や聴覚刺激を付加することで変容する現象に関する研究、統合失調症および統合失調型パーソナリティ傾向に着目したfMRI研究を行った。これらの成果は国内外の学会および論文誌上にて発表がなされた。
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