研究概要 |
人間は,外部環境から取得した異なる複数の感覚情報(視覚・聴覚・体性感覚情報等)を,脳内で複合的に処理(異種感覚情報処理)することで,外部環境の変化に対して迅速に対処し適応している.平成22年度においては,視聴覚を中心に異種感覚および単一感覚情報処理に関する以下の検討を行った.異種感覚に関しては,報告者の先行研究において同定した視聴覚刺激の対応変化に対する早期脳活動について,視聴覚連合の成立度合いを変化させて脳磁界計測を行った.具体的には,視覚刺激として上/下に移動する縞模様刺激,聴覚刺激として2種類のトーンバースト(高/低)を使用し,視覚刺激と聴覚刺激の時間差によって視聴覚連合をコントロールした.このとき上方向と高音,下方向と低音が対応するよう連合ルールを設け,そのルールに反する視聴覚刺激に対する早期脳活動の計測を行った.その結果,視覚情報が聴覚情報に対して十分先行している場合においては,先行研究で報告されている左右の上側頭部のみならず,頭頂後頭部においても早期脳活動が観測され,連合の度合いに依存して各感覚野が他の感覚情報も処理していることが分かった.また単一感覚に関しては,聴覚刺激(和音等)や視覚刺激(運動刺激,概念喚起刺激等)を用いて,同一感覚内での組合せの変化に対する検討や連合知覚レベルでの検討を行った.更には,感覚統合障害の見地から感覚情報の統合機構に知見を得るため,予備的な行動計測による検討も行った.これらの得られた知見は,異種感覚的な刺激の変化から,早期脳活動の発現,認知・行動生成に至る一連の対処過程の基礎となるものであり,平成23年度以降の人間の異種感覚環境に対する適応原理の解明に大きく寄与するものである.
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