研究概要 |
人間は,外部環境から取得する異なる複数の感覚情報(視覚.聴覚・体性感覚情報等)を,脳内で複合的に処理することで,外部環境の変化に対して迅速に対処し適応している.この異種感覚情報処理機構の解明を目的として,平成23年度においては,主に視聴覚刺激の変化に対する脳活動計測・解析を行い,その変化に対して誘発される早期脳活動と生成される認知・行動との関係を調べると共に,多角的な視点から同機構の検討を行った.具体的には,平成22年度に行った脳磁界計測実験に基づき,視聴覚刺激の複合的な対応変化に対するボタン押し課題下で更なる脳磁界計測実験を行った.視聴覚情報間に短時間の遅延が存在し,両情報を予測的に連合することが可能な場合には,視聴覚変化後100ms程度で左右の上側頭部と楔部が活動する一方,ボタン押しの平均反応時間は500-700msとなり,遅延時間とは負の相関関係にあった.このことから視聴覚連合知覚は,聴覚野と視覚野において,認知的・行動的な決定が行われる約500ms前である100ms程度で形成され,感覚皮質活動がその決定を促進していることが分かった.また感覚統合障害(Xenomelia)の知見から,短時間の遅延が存在する2(触覚)刺激の適切な知覚生成は,予測的な統合機構に依存していると考えられた.更に平成24年度に向けて,遅延時間が存在しない視聴覚刺激の同時変化に対する早期脳活動の予備的な計測も行った.平成23年度に得られた知見は,各感覚野が来るべき後続の異種感覚情報を予測しており,認知・行動レベルに至る大分前に異種感覚間での連合が可能なことを示している.このことから,高次の連合野に加えて低次の感覚野も異種感覚情報処理において重要な役割を果たしていることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,当初の予定通り,平成22年度に行った異種感覚刺激の変化と早期脳活動の関係,平成23年度に行った早期脳活動と認知・行動の関係を総括し,異種感覚刺激の変化入力から早期脳活動の発現,認知・行動の生成に至る一連のヒト脳の異種感覚情報処理機構に関する総合的検討を行っていく.その際に,平成24年度に実施予定である,早期誘発脳活動の背景に存在する脳律動変化や様々な異種感覚変化に対する早期脳活動の解析結果も併せて議論していく.
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