研究概要 |
本プロジェクトでは「痛み」の臨床治療アプローチを目指すため,ラバーハンドイリュージョンと呼ばれる心理学的触錯覚に焦点を当てた.ラバーハンドイリュージョンとは,ラバーハンド(ゴムの手)とリアルハンド(自身の手)を同時に刺激し,リアルハンドは机の下に隠してラバーハンドを見続けると,触知覚をリアルハンドからではなくラバーハンドから感じる錯覚である(Botvinick&Cohen,1998).本研究では,認知科学の中で蓄積されてきた触知覚の知見を元に,「痛み」の精神病理学的メカニズムを心理物理学的手法と脳機能画像法を用いて解明することを目的としていた.初年度(平成22年度)では,健常者における痛みの触知覚メカニズムを検討し,視触覚間の感覚間統合における心理物理学的実験をラバーハンドイリュージョンパラダイムによって実施した.その結果,参加者に提示する視覚情報を操作することによって痛みの知覚強度が変化することを明らかにした.平成23年度は論文執筆に時間を割き,現在論文を投稿中である.さらに脳機能画像手法(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)用の触刺激装置を空気圧式(非鉄性素材)で作製して実験を開始した.また本プロジェクトの着想に至るもととなった研究を論文化した.異なる感覚を処理する脳統合過程を多角的に検討することで,これまで実験的アプローチが困難とされてきた「痛み」のメカニズムの実証的な科学的解明が可能と考えられ,幻肢痛など幅広い症例に適用することが期待できる,
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