研究概要 |
本研究は、個体間の音声伝達のタイミング操作の効果、および同居個体の発声特性が小型霊長類であるマーモセットの発声に与える影響について実験的に検討し、音声交換における時間的規則性の基盤について明らかにすることを目的としている。これまでに、飼育下のマーモセットを同居飼育されている家族個体から隔離し、実験室にて発声行動を観察した。マーモセットは隔離によって特有の発声を頻発したが(phee call)、発声頻度には大きな個体差が見られた。 これまでの研究において、マーモセットは発声後の一定時間相手からの返事を待ち、返事が無い場合には新たにもう一度発声するといった、ヒトにおいて観察される発話交替(turn-taking)と類似た規則性を示すことが明らかになっている(Yamaguchi, Izumi, Nakamura, 2009)。このような音声交換について詳細な検討を可能にするために、実験室において自然な音声交換場面を再現した上で、様々な音響パラメタを操作することが有効である。この目的のために、被験体となるマーモセットの発声に応じて、事前に設定された遅延時間の後にあらかじめ録音しておいた「返事」の音声を再生するためのシステムを開発した。このシステムを用いて、防音箱に隔離したマーモセットの発声に対して、一般的な音声交換の時間的パラメタに合わせて「返事」の音声を呈示した。マーモセット個体間でみられるのと類似した発声行動を再現することが可能であり、この方法の有用性が示唆された。
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