覚醒レベルと脳機能の関連性を考察する上では、脳機能を測定する際に用いる実験課題そのものが覚醒レベルに影響を与えることは望ましくない。また脳のどの部位が覚醒レベルによる影響を強く受けるかを検討するためには、皮質から皮質下まで多くの領域が関与する課題であることが必要である。本年度はそのような観点に基づいて、視運動性眼振(OKN ; optokinetic nystagmus)と覚醒レベルの関係を検討した。OKNは動く視覚刺激に対する反射であり、多くの注意を必要とはしない。加えて、皮質の眼球運動関連部位から脳幹網様体まで多くの領域が関与していることが明らかになっており、本研究の目的に合致していると考えた。本年度は計画通り、MR外で、脳波計測による覚醒レベル評定と実験課題(OKN課題)を組み合わせて、覚醒レベルとOKNの間にどのような関連性があるかを検討した。その結果、OKNは反射であるが、実験者が刺激を見ている状態でかならず生起するわけではなく、OKNが生起しない場合には脳波で定義される覚醒レベルが明らかに低いことが明らかになった。また、脳波とは独立な覚醒レベルの指標として、瞳孔径の計測も同時におこなった。覚醒レベルの低下は瞳孔径の縮小を引き起こすことが先行研究で示されている。OKNが生起する場合と生起しない場合での瞳孔径を比較したところ、OKNが生起しない場合に瞳孔径はより小さいことが明らかとなった。これらの結果は、OKNが生成する過程には、覚醒レベルが何らかの形で関連していることを明らかにするものであった。この結果は、低レベルの反射機能の低下が、視覚的な情報の見落としなどに繋がっている可能性を示唆している。
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