我々は脳波と機能的MRI(EEG-fMRI)同時計測をおこない,覚醒レベルの低下にともない,全脳的なネットワークの構造がどのように変化するかの検討をおこなった.その結果,低覚醒状態(睡眠段階1)では複数の脳機能を統合して「意識」に関与すると言われているデフォルトネットワークにおいて,他の脳領域との連結が低減することが明らかになった.この機能的結合の低減が,覚醒レベル低下にともなう脳機能低下に関与していることが,示唆された.この結果は,申請者が共著者となり,英文学術雑誌への採録が決定している. 申請者は,脳活動の中で比較的に低次な機能であるoptokinetic nystagmus(OKN; 視運動性眼振.刺激移動方向に向かって眼球が不随意に動く動眼反射現象.)を用いて,視覚入力に対する反射的な眼球運動に対する覚醒レベルの影響をおこなった.脳波計測を用いて覚醒レベルを定義し,眼電位と赤外線計測装置を用いてOKNを計測し,それらの関連性を探った.その結果,(1)覚醒レベルの低下を示すα波(8-12Hz)の減少にともないOKNの出現頻度は減少し,(2)それは眠くなり眼を閉じたことによるものではないことを明らかにした.この結果は,視覚刺激入力の非常に早い段階で既に,覚醒レベルの低下による影響が起きていることを示す.この結果は,現在学術雑誌に投稿準備中である. 本研究では,ワーキングメモリなど高次の脳機能が,覚醒レベルの低下によりどのように機能停止していくかを検討することを目的としていた.しかし実際には覚醒レベルの低下に伴う高次脳機能の低下が一瞬でおこるため,fMRI解析ではそれを解明することができなかった.今後の検討課題としては,より高時間解像度で覚醒が低下する瞬間を同定することにより,高次脳機能と覚醒レベルの関係を解明する必要がある.
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