遺伝子のDNA配列を鋳型に、RNAポリメレースという酵素によってRNAが作られ、RNAの配列をもとに蛋白質が作られることは、生命の基本原理と考えられている。しかし、DNAからRNAが作られるところを実際に観察するのはこれまで困難だった。提案者らは、ヒトの染色体にポリメレースの複合体が結合して、RNAが作られてゆく様子をとらえることに成功し、その成果は、米国科学アカデミー紀要に発表され、Science誌のEditors'Choiceに選ばれた。本研究では、これらの実験解析結果からRNAPIIが遺伝子を転写していくダイナミクスをモデル化し、高精度シミュレーションを行うことで転写モデルの実証を行った。具体的には、RNAPIIが生成したRNAの時間・空間上での発現量の高精度シミュレーションを行い、実験結果との比較・検証を行った。ここで、時間・空間の分解能は、1(秒)・1(nt)レベルの高密度な計算とし、パラメータとしては、細胞の確率密度分布Pに加えて、RNAの減衰係数τ、TSS蓄積係数α、などを用いた。その結果、本シミュレーション結果は、実際のタイリングアレイによる実験結果を非常によく再現しており、複数のRNAPIIが協調的に転写運動を行っていることを示した。ここで得られた結果は、国際会議PSB2011において発表を行った。また、転写因子の複合体解析についての論文を、雑誌"The Journal of Biological Chemistry"に発表した。
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